【社会的養護】映画「旅のはじまり」を鑑賞して

私が副委員長を務めている神奈川県中小企業家同友会ダイバーシティ委員会が開催した12月27日の例会は「映画鑑賞」を組み込んで行われました。「社会的養護」をテーマに、映画「旅のはじまり」を鑑賞し、そこから若者達の現状や、本人達が持つ可能性を知る時間でした。

この若者たちは何一つ悪くない

映画では20代前後の若者が何人も登場する。親から虐待されたり、ネグレクトにあったりし、家で暮らすことができなくなった若者たちである。ちなみに、虐待には「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「ネグレクト(育児放棄)」があるそうだ。(ほか「経済的虐待」も存在する)

映画を見て思った一つが「この若者たちは何一つ悪くないんだよな」ということだ。もちろん、子どもだから考えが足りなかったり、 周囲とうまく関係が作れなかったりはいくらでもあるだろう。しかし、それらを経験し、学ぶことで成長するのが子どもなのだ。だから、この子たちが悪いわけではない。

誰が悪いとか、悪者や犯人探しをしたいわけではない。感じたのは、この若者たちが悪いわけではなく「親や家庭環境に恵まれなかった」ということだ。恵まれなかったとか、ラッキー、アンラッキーで済むことではないのだろうが「子どもは親を選べない」というように、若者たちがその親や環境を選んだわけではない。選べるのであれば、決して裕福でなくても、暖かく、優しい家庭、親を望むだろう。もちろんその親たちも、きっと何かを抱えているために、子どもに暴力をふるったり、関心がなくなったり、ということなのだと思う。

この例会を企画しているなかで「重い話になるかも」というようなことが聞こえきた。私は話の内容などに重いとか軽いとかをあまり気にせずただ聞くタイプだが、若者たちはもちろん、親自身が育った家庭や境遇、抱えていることなどを深く知れば知るほど、たしかにより「重い話」になるかもしれないと感じた。

思い浮かぶ「親ガチャ」という言葉

恵まれなかったということから浮かんだのは「親ガチャ」という言葉だ。100円玉などを投入しハンドルを回すとカプセルが出てくるあのガチャである。昨今、スマホアプリのゲームで「何連ガチャ」などのフレーズをよく目にする。ABCといったランクで「当たり」はA。Aより上の大当たりは「S」だ。超レアキャラや、強力なカードを手に入る大当たりは「SSR」などと言われる。

親ガチャの「当たり」は、金銭的に裕福な家庭に生まれたり、親の運動神経の良さを受け継いだりいったことでよく使われる。一方の親ガチャの「ハズレガチャ」は貧困家庭だったり、過干渉だったり、いわゆる「非モテ」だったりだ。

個人的に「親ガチャ」という言葉はあまり受け付けないが、児童養護施設で暮らす若者たちは、残念ながら「当たり」を引かなかったのだろうと思う。しかし少しばかり当たりを引かなかったとしても、虐待にあったり、養護施設で暮らすような環境になったりはしないはずだ。映画に登場した若者たちの「親ガチャ」は、「親が医者や経営者だったら」「お金持ちの家に生まれていたら」という「人生イージーモード」ではなかったことを嘆くのとはレベルが違う。親が一般的な会社員であっても、高学歴でなくても、普通の家庭であれば、頭が割れるほど殴られたり、性的虐待を受けたりりするようなことはないはずだ。

社会的養護の子供たちは「親ガチャ」のハズレを引いたと思ったり、「ハズレを引いた自分が悪い」と思ったりすることはないのだろうか。鑑賞中にそんなことを考えた。家に居場所がなくこの家にいてはいけない、生きていてはいけない、などと思う子どもの言葉からはそう感じる。

「就職ガチャは当たりだった」を若者たちに感じてもらうためにできること

便宜上「ガチャ」という言葉を使っているが、若者たちは、残念ながら「親ガチャ」の当たりは引かなかったかもしれない。しかし、「就職ガチャ」は大当たりだった!と思ってもらうことはできないだろうか。その可能性が同友会にはあるのではないか、この会社に入ってよかった。仕事が面白い、人の役にたつことの喜び、仕事を通じて感謝される嬉しさ、スキルが身について自分の成長が実感できる、そんなことをあの子らが思えるような環境を作ることが大切なのではないだろうか。

そんなことを考えながらの映画「旅のはじまり」を鑑賞した。年明けからは当社にも新スタッフが加わる。もっともっとできることがたくさんあるはず、よし、2023年はこれまでで一番頑張ろう。ダイバーシティ雇用を広げよう。さあ、考えること、ワクワクすることががたくさんだ。年末年始もあっという間に過ぎていきそうだ。

さあ、来年は今までで一番すごい年にしよう

では、私たち企業家は何ができるだろうか。同友会企業であれば、「良い会社をつくる」「良い経営者になる」につきる。社会的養護の若者たちが「良い会社に入った」「良い経営者と出会えた」と思ってくれることは、きっと多くの企業家としての喜びだ。同友会企業であればなおさらだろう。社会的養護の若者たちを正社員として雇用する以外にも、アルバイトやインターンをしてみたいという若者に仕事を与えるというのもあるだろう。実習というかたちで社会経験を積ませてあげることもできるかもしれない。ではそうなるために何をするか。今の経営環境でそれは可能か?「良い経営環境をつくる」ことが、若者たちを受け入れられる器を大きくしていくことなのではないか。

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